小さな日本人の人生旅行記(ESADE MBA編)

英語が苦手だったごく平凡なサラリーマンが世界に出ていく体験を綴ります。

MBAでもっともコンフォートゾーンから抜け出した授業

コンフォートゾーンを抜け出すためにビジネススクールに行く人は多いと思うのですが、個人的にもっとも抜け出せたのは、1月から履修していた「Global Sales Strategy」というクラスでした。MBAというと戦略が中心で、営業を教えるクラスは少ないイメージかもしれませんが、人気のある授業でした。
 
この授業はハーバードのMBAを卒業後、6回起業(5回成功)し、MITのEntrepreneur Centerの創業者・元マネージングディレクターであり、ドイツの大学やMITのMBAで営業についてのクラスを教えている教授でした。世界中でビジネスを拡大する事に成功し、アメリカのアントレの世界では相当なビックネームのようです。
 
このクラスは最も苦しいクラスでした。成績の付き方、それに伴う授業の内容が日本人にとって非常にタフだったからです。
 
 
・成績の50%は授業中の発言
これは日本人からするとMBAあるあるですが、日本人は授業で活発に発言をしない環境で育っているため、非常に苦労します(英語力の問題もありますが)。またこの授業のきついのが、コールドコール(突然当ててくるやつ)で、前に発言した学生の発言に対して別の観点から意見を言ったり、深堀りをするのが求められていたことでした。関係ない発言や価値の低い発言をすると減点になりました。二人のアシスタントが授業中にずっと発言をチェックしていました。通常通りケースを読んでディスカッションするのもそうですが、なんと本をまるまる一冊読んで、その内容をクラスでディスカッションしました。本は2冊読みました。
コールドコールではどうにか取り繕って発言しましたが、自分の発言内容をさらに深掘りする質問や「他には?」を繰り返され、苦労しました。挽回するために挙手で発言できる時は発言をしました。
 
・成績の25%はエレベーターセールスピッチ
なんと、最終日の前日は外部のゲストを25人ほど呼んで、カクテルパーティー(いわゆるネットワーキングパーティ)でセールスピッチをしました。2分間の間に興味を持ってもらって次のアポをとるという内容でした。ゲストはスタートアップのCEO、大企業の役員や部長クラス、投資家が来ていました。10人以上にピッチをし、毎回ピッチ後にフィードバックを受ける形でした。非常に辛辣かつ建設的なフィードバックをもらうことができました。まあ残念ながら私の場合は語学力でその他のクラスメイトにはないハンディキャップを追っていましたが。30人くらい生徒いる中でアジア人3人のみ、私は唯一の日本人。。しかもスペイン語話者同士であればはスペイン語でピッチするのも許されていたので、南米人も有利でした。どうやらこのセールスピッチではずっと教授がMITでの授業でもやり続けているようで、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事にも時折なっているようでした。
 
・あとの成績(25%)は授業直後の試験
その日の授業が終わった直後にその場で提出する形でした。その場で学んだ事の理解度を試されるものなので、いい意味でも悪い意味でも時間的効率のいい試験でした。ただ、朝9:30から18:30までフル集中でディスカッションしたあとに、試験(記述)をやるのはきつかったです。まあまだ英語力のハンディキャップは他のパートに比べて試験は少なかったですが。
 
 
 
振り返ってみて、やはりエレベーターセールスピッチのイベントが山場でした。
 
アウェーな環境の中で、初めて合う人に自分のアイデアをピッチしたのですが、最初の二人に辛辣な成績をつけられてケチョンケチョンに言われて、その後8人以上にアプローチし続けるのはやや心が折れそうでしたが、工夫をする中でだんだんと改善、最後の2人からは満点の評価を得ました。ただ、日本人が英語で短時間で営業をすることの厳しさ(特に日本企業や日本人になれてない人に対して)を痛感しました。イメージしにくい方は、日本語がたどたどしい外国人が突然パーティ会場で売り込みに来るのを想像してみてください。彼(彼女)に勝ち目はどれほどあるでしょうか。そんな感じのアウェー感です。
 
セールスピッチでの神経疲れと自分の英語面でのハンディキャップに直面し、帰り道はヘトヘトになりながら帰りました。久しぶりにスーツに革靴という格好をしたのもあるかもしれません。笑
 
次の日に教授からサプライズがありました。教授がピッチ後にゲストの方々と話した中で出てきたエピソードを教室のみんなに朝一番で共有したのです。ゲストの中で最もVIPの方(かれこれ7年間このピッチイベントに参加し、厳しい判定をする事で名の通っている人)から、「あの日本人の生徒はこれまで見てきたESADEの学生の中で一番のピッチをした。一方的なピッチではなく会話でニーズを聞き出し、構造立ててニーズに合わせるようにバリューを伝え、意地悪な反応にも柔軟に対応した。また、産業についてもよく調べていた。」という最高の褒め言葉を受けたというのです。半信半疑で聞きつつ、複雑ながら嬉しかったです。ある意味運がよかった(数撃ちゃ当たる)感じなのか、改善が報われたのか自分でも分かりませんが、ポジティブに捉えることにしましょう。笑
 
授業は基本的には世界中で営業を成功させてきた教授の経験に基づく実用的な内容でした。日本人は外国人よりも日本人に対して空気を呼んだりニュアンスを大切にしたりする嫌いがあるので(まあ当たり前っすね…)、必ずしも全てが日本のコンテクストに合うとは限らないなとは感じましたが、全体的にはグローバルに通用する製品やアイデアの売り方の基本を学ぶことができました。
 
そして成績は9.5/10という高い成績を残すことができました。教授が成績の分布を公表したため分かったのですが、約30人いた生徒の中で5位以内に入ることができました。まあ成績が高かったからどうという事もないのですが、英語がたどたどしい日本人がペラペラな外国人に「授業中の発言とセールスピッチ」で公平にやって「勝てる」という事を体験できました。ささやかな喜びの経験として、心の中にしまっておこうと思います。
 
こうやって書いてみると、別に体験しなくてもよくよく考えたり想像したら「こんな感じなんだろうな」と想像できるような体験なのかもしれません。しかし、体験するのとしないのでは大きな違いだと思っています。
 
最近は開いた時間で自分の知識を高めるような事をやっていますが、結局はコンフォートゾーンの外側にいる時にいかに自分がやるべき事を見出して着実に実行をすることが大切なんだなと思います。